Japanese_spiny_lobster

写真1.イセエビ

日本をはじめ、台湾の北部や韓国の済州島に分布するイセエビ(Panulirus japonicus)(写真1)は、比較的浅い岩礁域に生息しています。夏頃になると雌の親エビは、抱えている卵から幼生(フィロソーマ)(写真2)を放出します。フィロソーマは、沿岸の海から沖の黒潮、そしてさらに沖の黒潮再循環域を通って、プエルルスと呼ばれる形態に変態し、翌年の夏頃に沿岸の海に戻ってくると考えられています。つまり、約一年にも及ぶ回遊をしていることになります。

フィロソーマの時は遊泳能力が低く、流れが速い黒潮などの海流に逆らって泳ぐことができません。遊泳能力が高いプエルルスである期間は、回遊の最後の数週間と短いため、フィロソーマの時に沿岸から離れ過ぎてしまうと、泳いだとしても親エビたちがいる沿岸の海へと戻ることが難しくなります。黒潮は黒潮続流と呼ばれる比較的速い海流につながっているため、黒潮続流に取り込まれたフィロソーマは、そのまま北太平洋の真ん中に向けて流されてしまう可能性もあります。では、どのようにして沿岸海域に戻ってくるのでしょうか。

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写真2.イセエビのフィロソーマ

この答えを明らかにするため、私たちはコンピューターを使ってフィロソーマの回遊をシミュレーションしてみました。フィロソーマは成長するにつれて、分布水深を深くすることが実際の調査からわかっています。このため、そのような行動をする場合としない場合をシミュレーションで比べてみたところ、現実的な分布水深の変化をした場合、沿岸域に戻ってきやすくなることがわかりました。その理由は、1)漂う水深を深くすることによって黒潮続流の蛇行域で発生する海流から外れる流れを利用しやすくなり、結果的に黒潮続流から黒潮再循環域へと離脱できる可能性が上がるため、2)さらに黒潮再循環域でも、分布水深の変化が沿岸海域に回帰しやすい西方向の流れに乗りやすくさせるためです。つまり、水平方向の強い流れに逆らって泳げない代わりに、分布水深を変化させて最終的に沿岸海域に戻れるような良い方向の流れを捉えていることになります。1)と2)のメカニズムをそれぞれmeander trough detrainment、beta spiral transportとして学術雑誌に発表しました。1

これらのメカニズムは、P. japonicusと同じように成長に伴って分布を深くする他のイセエビ類など、様々な海洋生物の幼生の回遊に共通している可能性があります。

 


関連論文

  1. Miyake Y, Kimura S, Itoh S, Chow S, Murakami K, Katayama S, Takeshige A, Nakata H (2015) The roles of vertical behavior in the open-ocean migration of teleplanic larvae: modeling approach to the larval transport of Japanese spiny lobsterMarine Ecology Progress Series 539: 93-109 (abstract) (full-text request)

関連学会発表

  1. Miyake Y, Kimura S, Itoh S, Chow S, Murakami K, Katayama S, Takeshige A, Nakata H (2015) Does vertical migratory behavior of spiny lobster larvae influence their open-ocean migration? (P-3) Symposium on growth-survival paradigm in early life stages of fish: controversy, synthesis, and multidisciplinary approach, Yokohama, Japan, November (Poster)
  2. Miyake Y, Kimura S, Itoh S, Chow S, Murakami K, Katayama S, Takeshige A, Nakata H (2015) Transport mechanisms in the larval migration of Japanese spiny lobster. 39th Annual Larval Fish Conference, Vienna, Austria, July
  3. 三宅陽一・木村伸吾・伊藤幸彦・張成年・村上恵祐・片山知史・町田真通・竹茂愛吾・中田英昭(2014)イセエビ幼生の回遊における鉛直行動の役割水産海洋学会研究発表大会,横浜,11月

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