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写真1.シラスウナギ

私たちが食べているニホンウナギの供給は、主に養殖によって支えられています。養殖では、沿岸域に来遊した天然のシラスウナギ(稚魚)(写真1)を獲って育てていることから、シラスウナギが「どのようにして沿岸域に加入するのか?」を明らかにすることはとても重要です。また、これは漁業だけでなく効果的なニホンウナギの保全策を考える上でも重要といえます。シラスウナギは黒潮を離脱して沿岸域に来遊すると考えられています。しかしながら、シラスウナギの接岸回遊を含めて、その生態はまだ明らかになっていないことがたくさんあります。このため、私たちはシラスウナギの加入に関係するテーマについて研究を進めています。

シラスウナギの捕食

glass eel of Japanese eel

写真2.胃内容物から発見されたシラスウナギ

私たちは、シラスウナギがどのようにして加入するのかを考える上で、まだ明らかにされていない「捕食」について調べることが重要と考えました。その理由は、シラスウナギの時にどれだけ他の生物に食べられてしまうか(捕食の影響)によって、加入量の大きさが決まってしまう可能性があるからです。ニホンウナギだけでなく他種のシラスウナギでも捕食に関する詳細な報告がなく、この調査を始めるまでは、ニホンウナギのシラスウナギが他の生物に実際に食べられているのか、食べられているとすればいつどこで何に食べられているのかがわかりませんでした。2014年から2016年にかけて、利根川河口域周辺で魚食性の魚類を、釣りと漁師さんからシラスウナギ漁の混獲物を提供していただいて集めました。そして、釣りで採集したヒラスズキ幼魚とシラスウナギ漁で混獲された特定外来生物のアメリカナマズ(別名チャネルキャットフィッシュ)の胃内容物からシラスウナギを1個体ずつ発見しました(写真2)。1胃の中から見つかったシラスウナギの種を調べるためにDNAバーコーディングという手法を用いた結果、ニホンウナギであることがわかりました。しかし、採集した魚類の胃内容物からシラスウナギが見つかるケースは極めて少なく、見つかっても異内容物に占める割合は低い状態でした。シラスウナギが減っている現状では、河口域の魚食性魚類によって餌生物としてさほど利用されていないのかもしれません。シラスウナギの捕食について理解するためには、今回得られた知見に基づいてさらに調査を進めていく必要があります。アメリカナマズは特定外来生物のため、その捕食による影響が気になるところですが、今回の個体は網の中でシラスウナギを食べてしまった可能性があるため、今後、自然の状態で食べているのかについて検証する必要があります。

シラスウナギの来遊と黒潮の関係

50年間にわたる浜名湖のシラスウナギ漁獲量と周辺の気象・海況データを用いた統計的手法により、過去には黒潮の流路変動(接岸や離岸)と共に、シラスウナギの漁獲量(加入量)も変動していたことが明らかになりました。つまり、黒潮が陸に近い漁期には来遊する量が多く、反対に黒潮が陸から遠い漁期には来遊量が少ない傾向を示していたと考えられます。2これは、生活史初期に西岸境界流(黒潮やGulf Streamなど)から沿岸に来遊する海洋生物の加入量変動について、海流との関係性を統計的に示すことができた世界的にも珍しい成果となりました。一方で、近年では黒潮の流路と浜名湖におけるシラスウナギの加入量の間に、関係性が認められなくなっていることも明らかになりました。接岸回遊や加入機構の全体像は未解明であるため、今後も継続して研究を進める必要があります。


関連論文

  1. Miyake Y, Takeshige A, Itakura H, Itoh H, Onda H, Yamaguchi A, Yoneta A, Arai K, Hane YV, Kimura S (2018) Predation on glass eels of Japanese eel Anguilla japonica in the Tone River Estuary, Japan. Fisheries Science 84 (6): 1009-1014 (Link)
  2. Miyake Y, Tellier M, Takeshige A, Itakura H, Yoshida A, Kimura S. Past and lost influence of the Kuroshio on estuarine recruitment of Anguilla japonica glass eels. Journal of Oceanography. DOI: 10.1007/s10872-020-00543-9 (Link)

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