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写真1. アワビの浮遊幼生

高級食材として私たちに馴染みの深いアワビは、岩に張り付いているイメージが強いですが、卵からふ化して数日間は海の中を漂っており、この時期は浮遊幼生と呼ばれています(写真1)。浮遊幼生の時期が終わるとイメージ通りの岩や石に張り付く底生期に移行します。一度、底生期に入ってしまうとそれほど広い範囲を移動するわけではないので、アワビの主な移動は水に流される浮遊幼生期に起きると考えられています。

私の研究では、大型アワビ類(エゾアワビ、クロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビ)を対象としています。現在、大型アワビ類の漁獲量は少なくなっており、人工的に育てられた稚貝を放流したり、禁漁区(保護区)を設置したりといった対策がとられていますが、漁獲量を回復させるまでには至っていません。そこで、この大型アワビ類が浮遊幼生期に水の流れに乗ってどのように分散しているか、そしてどのような保護区の設置の仕方が良いのかについて、幼生の採集調査、流れの観測、流れや幼生分散のコンピューターシミュレーションを通して調べています。1,2,3

すでにエゾアワビではひとつの産卵時期に長距離と短距離の幼生分散を行うと考えられていましたが5、このような分散型はエゾアワビだけでなく、日本に生息する大型アワビ類がもつ共通の生残戦略であることを指摘しました。1,3 さらに世界のアワビ類の幼生分散研究について調べたところ、三つの分散型(図1:短距離型、長距離型、短・長距離型)の存在が明らかになってきました。4 今後もどのような保護区を設置すればアワビ類の漁業や保全にとって良いのかを調べていきたいと考えています。

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図1.アワビ類の3つの幼生分散型


関連論文

  1. Miyake Y, Kimura S, Horii T, Kawamura T (2017) Larval dispersal of abalone and its three modes: a reviewJournal of Shellfish Research 36(1):157-167 (abstract) (full-text request)
  2. Miyake Y, Kimura S, Kawamura T, Kitagawa T, Takahashi T, Takami H (2011) Population connectivity of Ezo abalone on the northern Pacific coast of Japan in relation to the establishment of harvest refugiaMarine Ecology Progress Series 440: 137-150 (open access)
  3. Miyake Y, Kimura S, Kawamura T, Kitagawa T, Hara M, Hoshikawa H (2010) Estimating larval supply of Ezo abalone Haliotis discus hannai in a small bay using a coupled particle-tracking and hydrodynamic model: insights into the establishment of harvest refugiaFisheries Science 76: 561-570 (abstract) (full-text request)
  4. Miyake Y, Kimura S, Kawamura T, Horii T, Kurogi H, Kitagawa T (2009) Simulating larval dispersal processes for abalone using a coupled particle-tracking and hydrodynamic model: implications for refugium designMarine Ecology Progress Series 387: 205-222 (open access)
  5. Sasaki R, Shepherd S A (1995) Larval dispersal and recruitment of Haliotis discus hannai and Tegula spp. on Miyagi coasts, Japan. Marine and Freshwater Research 46: 519–529

論文・学会発表